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2018年度「東工大の星」支援【STAR】受賞者のご紹介

電子化物、またはヒドリド化合物を含む新規固体触媒の開発
元素戦略研究センター 准教授 北野 政明

 無機材料骨格のアニオンサイトに、電子やヒドリドイオン(H-イオン)を有する材料をそれぞれ電子化物、水素化物(ヒドリド化合物)というが、これらの材料は強力な電子供与性や水素吸蔵放出能などユニークな特徴を有している。このような材料は、近年研究例が増加してきており、超伝導物質、イオン導電性材料、触媒など様々な分野への応用が期待されている。私は、電子化物やヒドリド化合物を用いることで、不活性な窒素分子を活性化し温和な条件下でアンモニアを合成する研究を行っている。

 アンモニアは、窒素肥料や窒素含有化成品の原料として近年では水素エネルギーキャリアとしても注目されている重要な物質である。工業的なアンモニア合成プロセスは、鉄系の触媒を用い高温・高圧(400-500ºC, 100-300気圧)条件で行われているため、エネルギー消費の高いプロセスとなっている。その最大の要因は、不活性な窒素分子を活性化するために高温が必要なためである。私は、電子化物やヒドリド化合物の特徴を利用することで、従来よりも遙かに温和な条件下でのアンモニア合成に成功した。

 これまで開発した触媒群を図1に示す。金属的電気伝導性、金属カリウム並みに低い仕事関数(2.4 eV)、化学的安定性を併せ持つ12CaO·7Al2O3エレクトライド(C12A7:e-)をRu触媒の担体として用いると、C12A7:e-が持つ強力な電子供与能によってRu上の窒素分子解離反応が大きく促進され、優れたアンモニア合成活性を示すことを見いだした1,2)。さらに、正に帯電した[Ca2N]+骨格の正電荷を保障する形でH-イオンが存在する物質であるCa2NH([Ca2N]+H-)がRu触媒の担体として優れていることも明らかにした3)。同じ元素を含むCaNH(HはH+として存在)にRuを担持した触媒ではほとんど活性を示さないことから、H-イオンが低温でのアンモニア合成活性に大きく寄与することが示唆された。H-イオンを有した材料は、表面にヒドリド欠陥を生じさせると、低仕事関数の電子が形成される。このことによりヒドリド化合物が、低温でのアンモニア合成に対し、優れた促進効果を有していることを明らかにした。また最近私は、Baを少量添加したカルシウムアミド(Ca(NH2)2)にRuナノ粒子を固定化した触媒が、300℃以下の低温度領域で、従来のRu触媒の100倍,工業鉄触媒よりも数倍高い触媒活性を示すことを発見した4)。本触媒では、触媒表面にヒドリド化合物が形成されると共に、反応中に自己組織的に担体がメソポーラス構造に変化し、Ru-Baコアシェル構造が形成されることを明らかにしている。本触媒は、現在報告されている固体触媒で最も高い触媒性能を有している。

 我々の発見以降、ヒドリド化合物を利用したアンモニア合成触媒の研究が他のグループからも報告されており、このような材料の研究がさらに加速されると考えられる。私は、今後電子化物やヒドリド化合物を中心に新触媒物質を開発し、温和な条件下での新しいアンモニア合成プロセスを構築していきたいと考えている。

図

図1:これまで開発した電子化物およびヒドリド化合物触媒


参考文献:

1) M. Kitano, Y. Inoue, Y. Yamazaki, F. Hayashi, S. Kanbara, S. Matsuishi, T. Yokoyama, S.-W. Kim, M. Hara, H. Hosono, Nat. Chem., 4, 934 (2012).

2) M. Kitano, S. Kanbara, Y. Inoue, N. Kuganathan, P.V. Sushko, T. Yokoyama, M. Hara, H. Hosono, Nat. Commun., 6, 6731 (2015).

3) M. Kitano, Y. Inoue, H. Ishikawa, K. Yamagata, T. Nakao, T. Tada, S. Matsuishi, T. Yokoyama, M. Hara, H. Hosono, Chem. Sci., 7, 4036 (2016).

4) M. Kitano, Y. Inoue, M. Sasase, K. Kishida, Y. Kobayashi, K. Nishiyama, T. Tada, S. Kawamura, T. Yokoyama, M. Hara, H. Hosono, Angew. Chem. Int. Ed. 57, 2648 (2018).


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