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アナウンスメント

若手研究者紹介6

心臓の収縮装置のでき方を解き明かす〜カルシウムの意外なはたらき
大学院生命理工学研究科 生体システム専攻 准教授
中村 信大


私たちは,生きていくために呼吸をし,食事をしています。呼吸で得た酸素と食物から得た栄養分は血流にのって全身の細胞に届けられて,生命活動に必要なエネルギーへと変化します。心臓は,酸素や栄養分の輸送に必要な血液循環の原動力となる臓器です。心臓は“心筋”と呼ばれる筋肉の細胞が集まってできており,心筋がいっせいにタイミングを合わせて収縮と弛緩を繰り返すことで血液が送り出されています。心筋細胞の中には無数の“筋原繊維”と呼ばれる繊維の束が一糸乱れず一方向に向かって整列しており,この繊維が伸び縮みすることで心筋の収縮と弛緩ができるようになっています。この心臓のしくみは,高校生が生物の授業で習うほど基本的な事実として受け入れられています。しかし,ここにはひとつの疑問が残されています。それは,“なぜ筋原繊維は同じ方向を向いて並ぶことができるのか?”という心臓のはたらきを理解するうえで根本的な問題ですが,未だに明確な説明ができていない生物学の難問の一つになっています。

 私たちの研究室では最近,ゼブラフィッシュを用いた研究から,この難問を解く鍵を見つけることができました。ゼブラフィッシュはペットショップでよく目にする小型の熱帯魚ですが,成長が早く,稚魚の体が透明で臓器を観察し易く,遺伝子操作が簡単であることから,遺伝子と臓器のでき方との関係を調べる上で優れた実験動物として幅広く利用されています。すでに,遺伝子の異常によって臓器の形成や機能が不全とあるゼブラフィッシュの変異体が数多く見つかっていますが,その中の一つに,心筋の筋原繊維の配向がバラバラになり心不全の症状を呈する変異体があります。私たちは,この変異体の異常の原因が,コネキシンと呼ばれる遺伝子の異常であることを突き止めました*1。さらに詳細な解析を進めると,1) コネキシンは受精後まもなく心筋細胞のもととなる細胞ではたらき始め,カルシウムイオン(Ca2+)を細胞の中に流入させること,2) このCa2+の流入が正常な心機能に必要であることが分かってきました。このことから,コネキシンによるCa2+流入が筋原繊維の配向決定のトリガーである可能性が高くなってきました。カルシウムは骨や歯をつくる重要なミネラルですが,心臓拍動に不可欠な筋原繊維の収縮にも必要であることが高校生物の教科書でも記述されるほど常識的なことになっています。私たちの発見は,心臓を動かすためだけでなく,心臓を形作るところでもCa2+が必要であるという,今まで誰も気づかなかった新たなCa2+の役割があることを示しているといえます。心臓に異常があるゼブラフィッシュというユニークな研究材料を用いて,Ca2+の新機能に着目することで,これまで解決の糸口をつかむのが難しかった筋原繊維形成の難問の決着に向けて,日々精力的に研究を続けています。

 *1 本研究のきっかけとなる変異体の発見は,広瀬茂久先生(東工大名誉教授)のグループによって行われた[Sultana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2008) 105, 4763-4768]。



概略図: こちら

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