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関連資料

アナウンスメント

「挑戦的研究賞」の受賞者紹介5

「測度距離空間上の確率解析と最適輸送理論」
理学院 准教授
纉c 和正


幾何学の研究対象となる滑らかな図形(リーマン多様体)上の熱伝導(熱方 程式の解)の解析と、空間の幾何学的特性との相関は、数学諸分野の興味 と技法の交錯する研究対象であり、古今多くの研究者の興味を惹き続けてきた。また、この問題は確率論とも深い相関がある。これは、ブラウン運動としてランダムに移動する粒子の平均的な空間配置が熱方程式の解を与えることによる。例えばその帰結として、熱方程式の解あるいはブラウン運動の挙動を調べることで、空間がどのように曲がっているかを知ることができる。 ここで、対象とする図形としてリーマン多様体の変形極限を考えよう。一般にそのような空間は特異性を持ち(円錐の頂点などが特異点の簡単な例)、その研究には通常の微積分学を適用し難い。このような空間で、どのような幾何学・解析学が展開できるだろうか。空間の曲がり具合を記述することは可能だろうか? また、熱方程式やブラウン運動と空間の幾何学的特性との相関を見ることはできるのだろうか?
 ここ10年くらいの間に、最適輸送理論を介して、これらの問に関する研究が急激に進展してきた。最適輸送理論とは、空間的に配置された物体(例えば土砂などを想像するとよい;数学的には確率測度で定式化される)を目的の配置へと移動するための最小費用に関する理論であり、それ自体はある種の最適化問題である。 幾何学的に自然な費用設定の下で最適な輸送法を考え、その輸送経路に沿ったBoltzmann-Shannon相対エントロピーの挙動を用いて、空間の曲がり具合を記述できる(図1参照)。

図
(図1)

また、同様の輸送費用から確率測度全体が成す空間のラグランジアンが定まり、その空間での力学を論じることができる。(断熱条件下での)熱分布の時間変化はこの空間内の曲線となるが、より詳しく、相対エントロピーの勾配流と(形式的に)見なせる。これらの性質は空間の特異性と相性が良く、その研究を通じて、特異空間上の新たな幾何解析の理論が構築されてきた。

とりわけ本研究では、最適輸送理論を用いた熱分布の解析手法を新規開発し、それを用いて、ある種の特異空間上の熱分布を相対エントロピーの勾配流として厳密に同定した。その帰結として、空間の曲がり具合の解析的な特徴づけがその空間でも有効であると明らかにした。更に、他の研究グループの成果を横断的に用いながら熱分布の解析を深めることで、最適輸送理論による空間の・ネがり具合の特徴づけと解析的な特徴づけとの同値性の問題を、最も一般的な形で解決した。これらの成果は特異空間上の幾何解析の研究を大きく促進することとなった。最近は、ここで扱った特異空間上のブラウン運動の性質に関する研究を進めている。空間の特異性故に既存の解析方法が適用できないため、随時、代替手法を開発する必要がある。



図
(図2)


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