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ヒトiPS細胞を用いたDOHaDの検証
生命理工学院 准教授 白木 伸明

近年、健康と疾病の素因は胎児期から乳幼児期に決定されるというDOHaD(Developmental origins of health and disease)という概念が提唱されている。国内外の疫学調査から出生体重の低下は虚血性心疾患・高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリック症候群・脳梗塞などの生活習慣病に加えて、神経発達異常・統合失調症の発症リスクが高くなることが明らかとなってきている。日本では出生体重の低下が著しく、2500g未満の低体重出生時の頻度は9.6%(2013年)とOECD加盟国でも極めて高い。日本人女性は痩せ願望が強く、先進国の中でも19-29歳のBMIの低下が著しいことや(Hayashi F. et al., Bi J Nutr., 2006)、妊娠中の体重増加不良や摂取カロリー不足などの食事習慣が胎児発育に悪影響を及ぼしていることが示唆されている(Kubota K et al., J Obestet Grynaecol Res, 2013)。この低出生体重児の増加は、日本が今以上の生活習慣病大国になることや精神疾患増加の誘因になることが危惧されている(Gluckman PD et al., Lancet 2007)。DOHaDに関しては、疫学、動物実験、分子レベル等多方面にわたって積極的に研究されているが、胎児期・新生児期の外的環境が成人後の健康・病気に与える影響をヒトで実験学的に検証することは困難であった。

我々の研究室では、これまでに内胚葉組織である肝臓(白木ら、Genes Cells., 2008)・膵臓(白木ら、Stem Cells., 2008, 坂野ら、Nat. Chem. Biol., 2014, 中島ら, Genes Cells., 2015)・小腸(大垣ら、Stem Cells, 2013)への独自のiPS細胞分化誘導方法を開発し、この手法を用いてヒト幹細胞の未分化維持および分化には生体内メチル化反応の基質であるSアデノシルメチオニン(SAM)が重要な役割を担っていることを世界で初めて明らかにした(白木ら、Cell Metab., 2014)。ヒトにおいても妊娠時にメチル基供与体である葉酸が不足すると神経管閉鎖障害が起こることが分かっている。妊娠前および全妊娠期間を通じての葉酸摂取の注意喚起がなされているにも関わらず日本では神経管閉鎖障害が増加傾向にあり、エビデンスに基づいた更なる啓もう活動が必要である。そこで、私は構築してきた分化誘導系がヒトの発生を模倣し、分化段階ごとの介入実験が可能であること着目し、ヒトiPS細胞分化系を利用すればDOHaDの実験学的検証が可能だと考えた。 本研究では、ヒトにおいては疫学以外に実験学的エビデンスが乏しいDOHaD研究領域に対して、発生過程を模倣するヒトiPS細胞の内胚葉(膵臓・肝臓・小腸)分化系と栄養因子除去培地という独自のツールで検証を行う。分化過程の外的環境がその後の細胞機能に与える影響を細胞種横断的に評価できる系(ヒトiPS由来細胞を用いたin vitro DOHaD検証プラットホーム)をつくり、親の生活環境が次世代の健康に与える影響を広く評価できる。構築したプラットホームは薬物の生殖発生毒性(催奇形性)試験への応用も可能である。

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