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「過酷流動環境下における機能分担型多重界面構造の機能発現実証研究」
科学技術創成研究院 先導原子力研究所 助教 近藤正聡

皆さんは液体金属という流体をご存知ですか。液体金属とは、図1の写真のように溶融した(液体の)状態の金属の事です。液体金属といえば、SF映画“ターミネーター2” に登場するT-1000という架空のアンドロイドを連想する方が多いかもしれません。映画の中で、このアンドロイドは液体金属の体を持ち、その姿や形を自由に変化させる機能を持っていました。残念ながら、こういった液体金属アンドロイドは未だ開発されていません。しかし、液体金属は、金属の優れた伝熱特性(高い熱伝導率、高い沸点)や、特有の化学反応性を有した魅力に溢れた流体で、世界中の最先端科学の幅広い分野(物質創成、医療応用(がん治療)、再生可能エネルギー、新型原子炉開発など)で応用され始めています。

しかし、液体金属にはこれまで解決されてこなかった課題があります。それは、液体金属を格納する容器との共存性(容器材料の腐食)です。特に液体金属が高温で流れる条件では、合金型の腐食が激しくなり、腐食した表面が流動する液体金属により削りとられて“コロージョン・エロージョン”という現象も起こります(図2 (a))。この複雑な現象は、SF映画で未知なる惑星に着陸した時のように神秘的で幻想的な微小浸食風景(注1)を材料表面に創り出す事があるため、研究者としては非常に興味深い現象なのですが、この課題を解決しない限り液体金属の応用範囲は広がりません。

この共存性の課題解決に向けて、液体金属中に溶存する非金属不純物(つまり金属元素ではない酸素や窒素などの不純物)を制御する技術を開発しました。特に、溶存酸素濃度をppbオーダー(注2)で制御する技術は、今の言葉で言うと“ド・ストライク”で、腐食抑制に直結する成果に繋がりました。適正に酸素濃度を制御した液体金属中から容器材料表面に酸素が供給されるため、容器の材料表面に酸化物の膜(酸化被膜)が形成されます。この酸化被膜が液体金属による腐食から材料を保護する機能を持っている事が分かりました。高温液体重金属(Pb-Bi(注3))流動ループ(図3)を用いた実験により、高温(550℃)・高流速(平均流速1m/s)の条件でも、この酸化膜が腐食に対するバリアーとして十分有効である事を明らかにしました。腐食(コロージョン)を抑制する事により、腐食により誘起されるエロージョンの発生も抑制する事ができました(図2(b))。また、この技術の波及効果は幅広く、核融合炉のような極めて高温で、放射線が酸化被膜めがけて沢山飛んでくるような超過酷条件(高温腐食と放射線照射の相乗効果)においても有効な共存性改善策として期待されています。この酸化被膜は、核融合炉の燃料であるトリチウム(注4)というガスも遮蔽できる事が分かりました。現在、一部の内容については核融合科学研究所(注5)との共同研究として研究を進めています。

液体金属の材料共存性の良し悪しは、液体金属を用いる機器の寿命に直結します。例えどんなに大きなエネルギープラントであっても、長寿命化の鍵を握るのは数ミクロンの厚さしかない酸化被膜という事になります。そこで、化学的に極めて安定で緻密な酸化被膜を形成するジルコニウム(Zr)という金属に注目しました。このZrという金属だけで容器を作る事は困難ですので、Zrを容器の構造材料表面に積層させる界面構造の開発を行っています。Zr層の表面に酸化被膜を形成させる事により、再表面の酸化被膜が“防食・ガス遮蔽性”、真ん中のZr金属層は“酸化被膜が剥がれた場合の再生機能(自己修復性)”、最も下層の構造材料の部分が“構造強度”というように、それぞれの層が役割(機能)を分担します。この界面構造を機能分担型多重界面構造と名付けました (図4)。透明な水や空気と違い、金属光沢のある液体金属が充填された容器の腐食の様子は目で確認する事ができません。そこで、液体金属そのものに微小な電流を流し、先ほどの界面構造の状態や欠陥の様子等をオンラインで電気化学的に監視する技術の開発も行っております。この技術が開発される事により、顕微鏡等による従来の腐食観察方法だけではわからなかった酸化膜内の欠陥形成や被膜の破壊、そして被膜の再生に関する動的な挙動もわかるようになると期待されています。

以上のように、液体金属の純度管理や防食界面構造、腐食のオンライン監視技術について、一貫した研究を実施する事により液体金属技術の更なる可能性を探索しています。

図

注1:プラズマ核融合学会が作成したカレンダーの2018年3月のページに、その微小浸食風景の写真が掲載されています。http://www.jspf.or.jp/journal/2017calendar.pdf

注2:液体重金属中では、10のマイナス7乗wt%程度の酸素濃度で制御します。つまり1ppb (ppbは10のマイナス9乗)という非常に小さな単位で酸素濃度を制御します。

注3:鉛ビスマス合金(Pb-Bi)は、鉛(Pb)とビスマス(Bi)の共晶合金で、融点は金属としては比較的低く123.5℃です。高速炉の冷却材や加速器駆動型変換炉のターゲット材として期待されています。

注4:トリチウム(Tritium, T)は、水素の放射性同位体で天然には殆ど存在しません。核融合炉の燃料となるもので、核融合炉の中で生産します。高温のガスの状態では、構造材料中を透過してなくなってしまうため、本研究のようなトリチウム透過防止膜の開発が進められています。

注5:核融合科学研究所:http://www.nifs.ac.jp/index.html