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熱画像風速測定法による都市歩行者レベルの風の空間分布計測
環境・社会理工学院 助教 稲垣 厚至

地球温暖化と都市化がもたらす気温上昇により、都市大気環境問題(集中豪雨、ヒートアイランド、突風災害等)の激化が危惧されており、現存の都市形態に対する微気象学的な観点からの診断が必要である。特に歩行者レベルの熱や物質の動態特性を把握することは街区の暑熱環境や大気質を評価する上で重要であるが、そのためには都市街区の複雑な風の空間分布を明らかにすることが不可欠である。しかしながら既往の研究において、実都市街区の風の詳細な空間分布を観測した事例は存在しない。その理由として、(1)街区の複雑な幾何形状のため点計測の空間代表性が乏しい、(2)レーダーのブラインド領域であること、(3)歩行者がいる環境でレーザー(ドップラーライダーやPIV等)の使用が困難であること、などが挙げられる。数値解析手法は当研究分野においても目覚ましい発展を遂げているが、歩行者レベルを十分な空間解像度かつ現実に即した境界条件で解析することは困難であり、また、実環境でのバリデーションデータは依然として必要である。

この問題の解決策の一つとして、パッシブな熱画像観測から地表面近傍の風速を推定する手法(熱画像風速測定法と呼ぶ)を研究開発している。熱画像風速測定法とは、物体表面温度の風による揺らぎのパターンを追跡することで(図参照)、表面近傍の風速を推定する手法であり、これまでに建物壁面、建物周り、運動場、山岳、空港などで使用実績がある。本手法はパッシブなセンサを用いるため、例えば歩行者がいる中での観測も可能である。また、ヘリコプターを利用したより広範な領域への適用についても検討しており、これにより建物に隔てられた街区の気流の空間分布を大局的に捉えることが可能となる。空撮画像における画像の揺れは不可避であり、本手法適用に際して障害となるが、画像解析(後処理)における特徴点抽出と射影変換を組み合わせた座標補正手法により補正が有効であることを確認している。

今後の研究において、熱画像風速測定法を用いて、これまで得られなかった実都市歩行者レベルにおける風の空間分布観測を実施する。上空大気との相互作用(地表面における収束と発散、ベンチレーション)などに着目し、歩行者レベルの大気環境形成要因を明らかにする。また、本手法を都市街区環境の診断などにも応用していきたい。



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