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関連資料

アナウンスメント

「東工大の星」採択者紹介1

「多元系層状化合物に内包する特異な電子構造に
由来した新機能探索とデバイス化」
応用セラミックス研究所 セラミックス機能部門 准教授
平松 秀典


研究内容の概要

多くの元素から構成される多元系層状結晶に内包された特異な電子構造に思いを馳せ、新機能を見つけ出し、その特長を生かしたデバイスの動作実証までを目指しています。

  1. 2種類の陰イオン(アニオン)からなる混合アニオン化合物、およびその関連化合物に固有の電子構造の有用性に着目し、新機能の発現に必要不可欠なエピタキシャル薄膜成長技術を開発しています。
  2. 自然の層状化合物に内包された2次元的な電子状態に特有の光(たとえば励起子発光)・電子(キャリア輸送特性など)・磁気(超伝導や強磁性)物性を主な研究対象としています。
  3. 物性研究だけでなく、当該物質群に特有のデバイス(発光ダイオード, トランジスタ, ジョセフソン接合など)の動作実証までを行っています。

背景・目的

「混合アニオン化合物」は、図1に示すように2種類の陰イオン(アニオン)をもち、広バンドギャップを有する酸化物層(化合物のバンドギャップは約6 eV)と狭バンドギャップを有するカルコゲナイド/ニクタイド層(2 eV以下)が、原子層オーダーで交互に積層しています。このように複雑な化学組成を有するにもかかわらず、2種類のアニオンがそれぞれの層で互いに混ざらないのが特徴で、酸化物層は絶縁体層、カルコゲナイド/ニクタイド層はキャリア伝導層と見なすことができます。すなわちこの構造は、層状結晶中にあたかも多重量子井戸の様な2次元電子状態が自然に形成されているようにみなせるため、それに由来したユニークな光・電子・磁気物性が期待できます。そこで、高品質薄膜試料の作製法の開発から取り組み、ユニークな電子状態に起因する新機能の発見と、それを利用したこの物質群に特徴的なデバイスの動作実証を目的として研究を行っています。

主な成果

混合アニオン化合物のように複雑な化学組成を有する新物質の特徴を見いだすためには、高品質なエピタキシャル薄膜作製技術が鍵となります。しかし、混合アニオン化合物は各層間の蒸気圧差が大きく、酸化物成分に対してカルコゲナイド/ニクタイド成分が圧倒的に蒸発しやすいため、多結晶バルク体試料の合成すら容易ではなく、また、通常の気相成長法では単一相の多結晶薄膜すら得られません。そこで、オキシカルコゲナイド(図1左)の場合は、微細構造を制御した極薄の銅薄膜を成長開始層とした独自の手法を開発し、エピタ・Lシャル薄膜合成に成功しました [1, 2]。その高品質試料をもとに、2次元電子状態に由来した特異な正孔キャリア輸送特性(ワイドギャップでありながら、p型GaNでも達成されていない1021cm-3の正孔キャリアの高濃度ドーピングを実現 [3, 4,5])を明らかにし、室温で安定な励起子(電子−正孔対)による高効率な青色発光を利用した室温励起子発光ダイオード(図2 [6])を開発して、光電子デバイスとして将来有望となるポテンシャルを実証してきました。また、類似構造を有するオキシカルコゲナイドLa2CdO2Se2も室温励起子物質であることを見いだしたことから [7, 8]、本研究の物質探索指針の有用性を立証しました。
 続いて、物質群をオキシニクタイド(図1右)に拡張することで、2次元構造に起因する新超伝導体LaFePO [9]・LaNiPO [10]の発見につながりました。そして、オキシカルコゲナイド研究の蓄積と更なる技術開発により、銅酸化物以来の第二の高温超伝導フィーバを引き起こした鉄系超伝導体のオキシニクタイドLaFeAsO [11]や層状ヒ素化合物SrFe2As2 [12]のエピタキシャル薄膜の作製に世界で初めて成功してきました。一般的に紫外光が利用されるパルスレーザー堆積法(PLD法)に対して、選択的な蒸着を防ぐことを主な目的として、可視光レーザーを採用したPLD法の開発(図3)が、現在の高品質な鉄系超伝導体BaFe2As2薄膜の達成につながっています [13]。
 この薄膜成長法の確立により、ジョセフソン接合(図4)や超伝導量子干渉素子(SQUID)をいち早く実現しました(図5左)。高品質薄膜が得られたことにより、等方的で大きな上部臨界磁場や水蒸気誘起による超伝導発現など、この物質系特有の現象も発見しました [14, 15]。また、この技術によって、理想的な粒界形成ができ、臨界電流密度(Jc, 超伝導体が流せる最大の電流密度)が急減する結晶粒界の臨界角(θc)が9度と、銅酸化物超伝導体YBCOよりも2倍大きいことを発見し、鉄系超伝導体が超高磁場を発生するためのマグネット用薄膜線材への応用に有望であることを提唱しました(図5右) [16]。
 最近、この鉄系層状母物質のなかでも、TlFe1.6Se2の特異な電子構造(電子同士の静電反発が強くモット絶縁体になる)に着目して、電気二重層トランジスタ構造を利用し、鉄系超伝導体関連物質では初めてのモット絶縁体から金属への相転移誘起にも成功しました(図6)[17]。

今後の取り組み

自然の結晶中に形成された、単に結晶構造だけでなく電子構造の観点においても2次元的であるという特徴を生かす目的で、新機能探索からデバイス動作の実証までを行ってきました。今後はこの研究をさらに発展させていくだけでなく、この研究を通じて見つけてきた新物質の中から、一つでも実社会に役立つ実用材料となってくれることを期待しながら、熱意を持って研究に取り組みたいと思っています。

終わりに

[1]〜[17]をクリックすると、関連する原著論文もしくは総説のWebページへジャンプします。関連するpdfファイルを閲覧するためには、各雑誌との契約が必要ですが、東工大学内からであればすべて閲覧可能です。




図1
図1:混合アニオン化合物の結晶構造
(左)オキシカルコゲナイド、(右)オ・Lシニクタイド


図2
図2
(左)高品質LaCuOSe膜と青色発光
(右)LaCuOSe膜を使った青色発光ダイオード


図3
図3
(左)鉄系超伝導体オキシニクタイド薄膜用に開発したPLDシステム
(右) 高純度化したターゲット体と得られた薄膜試料


図4
図4
(左)鉄系超伝導体のジョセフソン接合
(右)ジョセフソン接合に特徴的なマイクロ波照射下での
階段状の電流−電圧特性(シャピロステップ)


図5
図5
(左) 鉄系超伝導体のジョセフソン接合を組み合わせた
超伝導量子干渉素子(SQUID)
(右) 銅酸化物より優れた粒界での臨界電流密度(Jc)と
金属テープ上の超伝導薄膜線材


図6
図6
TlFe1.6Se2の結晶構造とそれを使った電気二重層トランジスタの概略図


図
概略図

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