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アナウンスメント

「東工大の星」採択者紹介4

「ミリ波無線技術の研究 ― 世界最速の28Gb/sの伝送速度を達成 ―」
大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 准教授
岡田 健一


■研究内容の概要

無線通信速度の向上のため、ミリ波を用いる無線機の研究開発を行っています。ミリ波は30GHzから300GHzの周波数帯の電波で、特に60GHz帯を用いる無線通信について研究を行っています。現在の携帯電話に比べて30倍高い周波数を用いて300倍以上の無線伝送速度を実現しようとしています。

  • 現在の無線LAN(WiFi)用や携帯電話用の無線ICと同じCMOSトランジスタにより製造できるため、小型、安価かつ大量生産が可能。
  • 携帯機器への組み込みが可能。
  • これまでに、CMOSによるミリ波無線機の作成に成功し、高い性能を実現。
  •  »世界で初めてミリ波帯で64QAMによる無線通信を実現
     »世界で初めてダイレクトコンバージョン型の無線機により16QAMによる無線通信を実現。
     »世界最高速である28.16Gb/sを実現(携帯電話の約300倍の速度で、DVDを1.3秒で転送可能)。
     »消費電力は送信時に250mW、受信時に219mW。
  • 60GHz帯で一番標準的な無線規格IEEE802.11adに準拠。
  • 注入同期現象を用いることにより、20dBの位相雑音改善に成功。その成果により、上記性能を実現した。

  • ■研究背景

    現在、携帯電話や無線LANなどの公衆向け無線通信機器には、6GHz以下の周波数が利用されている。6GHz以下の周波数帯は既に様々な無線通信に利用されており、それぞれの無線通信規格で利用できる周波数帯域はごく限られたものである。例えば、携帯電話では2GHz帯の20MHz帯域を用いて約0.1Gb/sの通信速度に対応している。実用化されている中で一番高速な無線LAN規格であるIEEE802.11acでも5GHz帯における160MHzの周波数帯域しか利用できない。無線伝送速度は周波数帯域で制限されるため、このような逼迫した6GHz以下の周波数を利用する限り、今以上の大幅な速度向上は期待できない。
    そのような中、近年注目を集めているのは60GHz帯を用いるミリ波無線通信である。60GHzでは最大で9GHzの周波数帯域が免許不要で利用可能であり、大幅な通信速度の向上が期待できる(図1)。60GHz帯無線規格にはIEEE802.11ad, WiGig, WirelessHD, IEEE802.15.3c, ECMA-387/ISO/IEC13156等があり、共通して4チャネルの割り当てがあり、それぞれ2.16GHzの帯域を持つ。4チャネルあわせると8.64GHz帯域となる。5GHzを利用するIEEE802.11ac規格で利用される160MHz帯域に比べて54倍広い。RFフロントエンドのデータレートとして、64QAM変調(用語1)を用いれば1チャネル2.16GHz帯域あたり10.56Gb/sの無線通信が実現できる。また、16QAM(用語1)により、4チャネル束ねた8.64GHzにより28.16Gb/sの無線通信が実現できる。本研究で作成した無線機では64QAMによる10.56Gb/sと16QAMによる28.16Gb/sの両方を実現した。それぞれ世界初の成果である。
    ディジタル回路で一般に用いられるシリコンCMOS集積回路として実装され、回路面積は3.9mm² と小さい。消費電力は送信機186mW、受信機155mW、発振器64mWと低く、携帯電話などのモバイル機器に搭載可能な成果である。


    ■技術内容

    本研究において作成した無線機は、64QAM(用語1)変復調による無線送受信が可能な世界初の60GHz帯ミリ波無線集積回路である。16QAM変調においては、最大28Gb/sの無線通信速度を実現した。従来方式では変調帯域が広げられず、伝送速度を20Gb/s以上にできなかったが、ミキサファースト型の送信機を開発し、この問題を解決した。 図2に無線機全体の回路ブロック図を示す。ミキサファースト型送信機によりベースバンドにおける超広帯域特性を実現した。受信機ではFlipped Voltage Followerによる広帯域高線形開ループアンプを用いた。位相雑音改善のために、注入同期型の発振器(QILO)を用いた。送信機において、ミキサファースト型の構成を考案し、BB(BaseBand: ベースバンド)側において5GHz以上の非常に広帯域な利得および入力インピーダンス特性を実現した。BB入力側からみると、RF側のBPF特性がダウンコンバートされてLPF特性を実現できる作用を用いた。
    図3にチップ写真と各部の消費電力を示す。CMOS 65nmプロセスにより製造した。ディジタル回路で一般に用いられるシリコンCMOS集積回路として実装されている。回路面積は、送信機1.035mm² 、受信機1.25mm²、発振器0.90mm²、制御回路0.67mm²である。 表1に、測定結果をまとめる。60GHz帯で規定される4チャネルすべてにおいて64QAM変調による送受信を確認した。変調性能を表すEVMで-29dBを達成した。送受信込みのEVMにおいて-26dBの性能を達成した。64QAM利用時の伝送速度は1チャネルあたり10.56Gb/sである。4チャネルすべて束ねて利用することにより16QAM変調で28.16Gb/sの伝送速度を達成した。
    図4に、これまでに学会等で報告のあったミリ波無線機に対する性能比較を示す。本研究によるミリ波無線機は、世界で初めて64QAMによる無線送受信をCMOSミリ波無線機により実現した。60GHz帯で規定される4チャネルすべてにおいて送受信を確認した。4チャネルすべて束ねて利用することにより世界で初めて16QAM無線通信により28.16Gb/sの伝送速度を達成した。

    ■今後の取り組み

    今度は、ミリ波無線機の性能を向上させ、より低消費電力での実現を図る。出力電力も向上させることで、無線LANとしてだけではなく、次世代5G携帯電話や、基地局などの拠点間通信(10km, 10Gb/s)への応用についても検討を行う。また、本研究によるミリ波集積回路技術は、77, 79GHz帯を用いる自動車・交通管制用レーダーや、空港等のセキュリティスキャナでも利用可能であり、スマートフォンなどの携帯端末だけでなく、幅広くインフラ技術としても応用を広げる研究を行う。



    【用語説明】
    用語1: QPSK変調、16QAM変調、64QAM変調

    変調方式の種類。QPSKは位相偏移変調の一種。一回の変調でそれぞれ4値を用い、それぞれ2bitの情報伝送が可能である。16QAMおよび64QAMは振幅情報も用いる直交位相振幅変調の一種であり、位相と振幅の両方に変調をかけることにより、一回の変調でそれぞれ4bit, 6bitの情報伝送が可能である。 QPSK, 16QAM, 64QAMの順で必要な信号純度が高くなり、回路の設計が難しくなる。

    用語2:IEEE802.11ad規格

    IEEE802.11ad規格は、IEEE802委員会下のIEEE802.11ワーキンググループが標準化を行った60GHz帯のミリ波を用いる無線通信であり、最大約7Gb/s(プリアンブル含まず)の無線通信が可能である。その他、IEEE802.11ad規格、WiGig規格、WirelessHD規格などが60GHz帯を用いる無線通信であり、RFフロントエンドしては共通のものが利用可能である。



    図1
    図1:各国の60GHz帯周波数割当

    特徴:国ごとに利用できる周波数帯域は異なるが最大で9GHzの周波数帯域が免許不要で利用できる。60GHz帯無線規格にはIEEE802.11ad, WiGig, WirelessHD, IEEE802.15.3c, ECMA-387/ISO/IEC13156等があり、共通して4チャネルの割り当てがあり、それぞれ2.16GHzの帯域を持つ。4チャネルあわせると8.64GHz帯域となる。5GHzを利用するIEEE802.11ac規格(いわゆる無線LAN)で利用される160MHz帯域に比べて54倍広い。


    図2
    図2:RFフロントエンドのブロック図

    特徴:送受信ともダイレクトコンバージョン型とした。Mixer-first送信機によりベースバンドにおける超広帯域特性を実現した。受信機ではFlipped Voltage Followerによる広帯域高線形開ループアンプを用いた。位相雑音改善のために、注入同期型の発振器(QILO)を用いた。


    図3
    図3:チップ写真と各部の消費電力

    特徴:CMOS 65nmプロセスにより製造した。



    表1:64QAMおよび16QAM変調による伝送速度
    表1


    *チャンネルあたりの伝送速度、もしくは、4チャンネルボンディング時の伝送速度
    **送信機EVM
    ***送信機と受信機を含めて測定したEVM
    特徴: 60GHz帯で規定される4チャネルすべてにおいて64QAM変調による送受信を確認した。4チャネルすべて束ねて利用することにより16QAM変調で28.16Gb/sの伝送速度を達成した。


    図4
    図4:ミリ波帯無線機の伝送速度比較

    特徴:世界で初めて64QAMによる無線送受信をCMOSミリ波無線機により実現した。60GHz帯で規定される4チャネルすべてにおいて送受信を確認した。4チャネルすべて束ねて利用することにより世界で初めて16QAM無線通信により28.16Gb/sの伝送速度を達成した。

    譚ア莠ャ蟾・讌ュ螟ァ蟄ヲ