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関連資料

アナウンスメント

「東工大の星」採択者紹介1

「形状記憶合金のねじれたドメイン構造と高性能化原理」
精密工学研究所 准教授 稲邑朋也


研究の概要

形状記憶合金は,繰り返し使用による機能劣化を抑制することができれば用途が格段に拡がります.本研究では,機能劣化の黒幕となる内部構造をつきとめ,これを消去することで,従来の合金を遙かに凌ぐ耐久性を持った超長寿命形状記憶合金の設計原理を明らかにしようとしています.


研究背景

形状記憶合金は変形しても加熱すると形状が回復する「形状記憶効果」や,ゴムの様にしなやかに変形する「超弾性」を示す合金です.超弾性はステント,ガイドワイヤー,歯列矯正ワイヤをはじめとした医療器具,メガネなどの装身具に幅広く使われていますが,形状記憶効果を利用した応用例はさほど多くありません.その理由の1つは,形状記憶効果を繰り返すと材料中に格子欠陥が蓄積し,材料特性がすぐに変化してしまうことです.例えば,現在最も広く実用されているTiNi合金の場合, 10回の繰り返しだけで形状回復温度が約10℃も低下してしまい高々106回の駆動で破壊します.形状記憶合金は,単位体積当たりの発生仕事量がアクチュエータ材料の中では最大で,しかも90℃の高温熱源と40℃の低温熱源での熱効率は約4%であり,これは同条件でのカルノー効率の3割にも達します.よって耐久性を格段に向上できれば,これらの優れた特性を活かして,マイクロアクチュエータ技術,低質熱源利用技術,熱交換技術など,新しい用途が広がると期待されています.ところが,形状記憶合金の機能劣化メカニズムは未だによく分かっていません.本研究は,形状記憶合金の持つ特有な内部構造に関する従来の理解を深化させ,機能劣化の原因とその抑制原理を明らかにすることで,形状記憶合金を超長寿命化させることを目指しています.



研究内容

図1は教科書などに記載されている形状記憶合金の動作原理です.合金の高温相はほとんどが立方晶で (a),相変態点以下では単斜晶,斜方晶,三方晶などの対称性の低い結晶構造へと,マルテンサイト相変態します.圧電体と似ていますが,発生する格子ひずみが数%オーダーと桁違いに大きいのが特徴です.相変態すると,高温相のいくつかの対称要素が失われ,それに応じて結晶学的に等価ですが向きの異なる低温相ドメインが形成されて,特有のドメイン構造を呈します(b).このドメイン構造に力を加えると,ドメインスイッチングが起こり材料の形が変わります(c).(c)の状態になった後,相変態点以上に加熱すると元の母相に戻ります.この際に形状が回復すると共に,力を発生します.これが動作の1サイクルになります.これまでの研究から,(b)の状態にしただけでも,合金中には転位とよばれる格子欠陥が大量に発生し,相変態温度を低下させてしまうことが分かっていますが,この転位がどのように発生するのか明確になっていませんでした.
本研究では,(b)のドメイン構造に注目しました.従来は,(b)のドメイン同士は,鏡映の関係(双晶関係)で結合しており,ドメインスイッチングはスムーズに行われると理解されていました.ところがドメイン結合面での物体の連続性を解析してみると,ドメイン壁に剛体回転が必要なことが分かり,従来の理解は不正確であることがわかりました.そこで,ドメイン構造の幾何学を厳密に数値解析すると共に,通常は無視される0.1°オーダーの結晶方位差を電子顕微鏡により精密解析しました.その結果,鏡映と考えられてきたドメイン結合面には,ねじれや裂け目に相当する剛体回転(回位)型のミスフィットが存在し,これを解消するためには転位の導入が不可欠であることを発見しました(図2).ねじれや裂け目の大きさは,変態時の格子ひずみと,結合するドメイン種に依存し,一般的な形状記憶合金では0.1°〜1°のオーダーになります.これは,たった一回の駆動で数%塑性変形した場合に相当する量の転位が導入されることを意味します.またこういった転位はドメイン壁の移動に際し障害物となるばかりか,新たな転位の増殖源ともなり得るので,ドメイン結合面でのねじれや裂け目が,形状記憶合金の耐久性を低下させる黒幕であると考えられます.現在,実用的な複数の合金系において,ねじれや裂け目がドメイン構造の欠陥,変形挙動,格子欠陥の累積挙動に与える影響を解明すると共に,格子ひずみの合金組成依存性を利用して,ねじれや裂け目の無いドメイン構造を持った,超長寿命形状記憶合金の創製に挑戦しています.

図
図1形状記憶合金の動作



図
図2ドメイン組織のねじれ

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