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関連資料

アナウンスメント

「東工大の星」採択者紹介3

「芳香環ミセルを活用したナノカーボンの水溶化」
資源化学研究所・准教授
化学環境学専攻(兼任)
 吉沢道人


はじめに

フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノカーボン(図1)は、新種の機能性炭素材料として注目されています[1,2]。これらの化合物は高い疎水性と強い凝集性から、溶液状態で利用する場合、直接的な化学修飾が必要です。近年、可逆的な分子間相互作用による間接的な化学修飾により、ナノカーボンの構造を維持したまま、水溶化する方法が幾つか報告されています。しかしながら、幅広いサイズや形状のナノカーボンに対して、簡便にかつ効率的に水溶化できる有効な手法は開発されていません。


図

図1.種々のナノカーボン(フラーレン、ナノグラフェン、カーボンナノチューブ)の構造.

著者らのグループでは、石けんから形成する球状の分子集合体の「ミセル」(図2a)[3]から発想を得て、2つの芳香環パネル(アントラセン)をV型に連結し、その凸部に2つの親水基を導入した両親媒性分子1を開発しました(図2c)[4,5]。この分子は水中で、制御された分子間相互作用により球状の分子集合体の「芳香環ミセル」(図2b)を定量的に形成します。今回、最新の研究成果として、このV型両親媒性分子を新規な水溶化剤として利用することで、種々のナノカーボン(フラーレン、ナノグラフェンおよびカーボンナノチューブ)の内包による水溶化を達成しましたので報告します[6]


図

図2.(a)既存のミセルおよび(b)芳香環ミセルの模式図.(c)著者らが開発したV型両親媒性分子の構造式とその立体構造.


フラーレンの水溶化

V型両親媒性分子1とフラーレンC60の固体を、メノウ乳鉢を使って約1分間、磨り潰した後、水を加えてろ過することで、茶色の透明溶液が得られました(図3a,b)。その溶液の分析から、芳香環ミセルが1分子のC60を効果的な分子間相互作用(π-スタッキングおよび疎水効果)により内包することで、水溶化していることが明らかになりました(図3c)。得られました内包体の安定性は高く、加熱や酸性・塩基性の条件下でもその構造を維持していました。また、内包により高濃度のフラーレン水溶液を作製することも出来ました。さらに、フラーレンC70とC84、ダンベル型フラーレンC120[7]も同じ操作で、簡便に水溶化することに成功しました。水溶化能について、従来の水溶化剤(γ-シクロデキストリン)と比較したところ、興味深いことに本方法は、C60に対して2倍以上、より大きなC70とC84に対してそれぞれ、約12および7倍もの高い水溶性を示すことが明らかになりました。


図

図3.(a)両親媒性分子1によるフラーレンC60の水溶化法と(b)その溶液と吸収スペクトル.(c)1分子のフラーレンC60を内包した芳香環ミセルの立体構造.


ナノグラフェンの水溶化

芳香環ミセルは芳香環パネルからなる柔軟な殻(シェル)を有することから、平面状のナノグラフェンも効率良く内包できることを見出しました。例えば、テトラセンとペンタセンの固体をそれぞれ、両親媒性分子1と磨り潰すことで、黄色および青色のクリアーな水溶液が得られました(図4a,b)。これらのナノグラフェンは、芳香環ミセル内で2〜3分子が積層していることが明らかになりました。蛍光性を有するテトラセンとペンタセンは、光分解性の高いポリアセンとして知られています。注目すべきことに、芳香環ミセルにカプセル化されたテトラセンとペンタセンは光照射に対して顕著に安定化され、カプセル化しない場合と比較してそれぞれ、230倍および4100倍以上も光安定化することが明らかになりました。また、同様な手法で、他の平面状芳香族分子(ペリレン、コロネン、ヘキサベンゾコロネンなど)も水溶化することに成功しました。


図

図4.(a)両親媒性分子1によるテトラセンとペンタセンの水溶化と(b)それらの吸収スペクトル.


カーボンナノチューブの水溶化

最後に、カーボンナノチューブの水溶化にも挑戦しました。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と両親媒性分子1の固体を磨り潰した後、水を添加してから、遠心分離装置で不溶のSWCNTを除去したところ、黒色の水溶液が得られました。より効率的な水溶化法を探索したところ、水を添加後に、約30分間の超音波照射を追加することで、濃黒色の水溶液を得ることに成功しました(図5a,b)。得られた溶液の分析から、内包されたSWCNTは、単分散の状態であることが示されました。また、その黒色溶液は室温で1ヶ月以上放置しても変化しないことから、SWCNT内包体も水中で極めて安定なことが分かりました。分子モデリングから、1のV型芳香環パネルとSWCNTの湾曲面の効果的な分子間相互作用が、集合体の安定化に重要と考えています(図5c)。同様な磨り潰しと超音波照射の操作で、多層のカーボンナノチューブも水溶化することに成功しました。


図

図5.(a)両親媒性分子1による単層カーボンナノチューブの水溶化と(b)その吸収スペクトル.(c)単層カーボンナノチューブと1の効果的な分子間相互作用.


おわりに

以上のように、著者らのオリジナルのV型両親媒性分子は、形状や大きさに依存せず、種々のナノカーボンを簡便にかつ効率的に水溶化できることが明らかになりました。また、得られたナノカーボン内包体は、分子間相互作用により水中で安定に存在し、内包されたポリアセンは光安定化することを見出しました[6]。本研究の両親媒性分子は、比較的簡単な反応で大量に合成することが可能であり、また、大気下中で取扱うことができることから、様々な分野での応用が期待できます。今後の研究展開として、より難溶性の高分子化合物の水溶化や内包物の外部刺激による放出を目指しています。さらに、水を媒体とした高機能性材料の創成に挑戦していきます[8]




謝辞

本研究は、本学資源化学研究所の穐田宗隆教授および近藤圭博士、東京大学理学部の松尾豊教授および中川貴文博士との共同の成果であり、また、最先端・次世代研究開発支援プロジェクト、新学術領域研究「柔らかな分子系」、東工大の星支援(STAR)の研究助成で達成しました。ここに深く感謝申し上げます。




参考文献

[1] H. W. Kroto, J. R. Heath, S. C. O’Brien, R. F. Curl, R. E. Smalley, Nature, 318, 162-163 (1985) ; S. Iijima, Nature, 354, 56-58 (1991) ; R. H. Baughman, A. A. Zakhidov, W. A. de Heer, Science, 297, 787-792 (2002).
[2] N. Martin, J.-F. Nierengarten, Supramolecular Chemistry of Fullerenes and Carbon Nanotubes (Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2012)
[3] Y. Moroi, Micelles, Theoretical and applied aspects (Plenum, New York, 1992)
[4] K. Kondo, A. Suzuki, M. Akita, M. Yoshizawa, Angew. Chem. Int. Ed., 52, 2308-2312 (2013); 本論文は、米国化学会のChemical & Engineering News (Feb. 11, 2013, p 32)にてハイライトされました。
[5] 東工大ニュース(研究):http://www.titech.ac.jp/news/2013/003392.html
[6] K. Kondo, M. Akita, T. Nakagawa, Y. Matsuo, M. Yoshizawa, Chem. Eur. J., 21, 12741-12746 (2015); 本論文は、同誌のエディターが特に重要性を認めた“Hot Paper”に選出されました。
[7] G.-W. Wang, K. Komatsu, Y. Murata, M. Shiro, Nature, 387, 583-586 (1997).
[8] 著者らが開発した他の水溶化剤:A. Suzuki, K. Kondo, M. Akita, M. Yoshizawa, Angew. Chem. Int. Ed., 52, 8120-8123 (2013) ; K. Kondo, A. Suzuki, M. Akita, M. Yoshizawa, Eur. J. Org. Chem., 7389-7394 (2014) ; Y. Okazawa, K. Kondo, M. Akita, M. Yoshizawa, J. Am. Chem. Soc., 137, 98-101 (2015) ; Y. Okazawa, K. Kondo, M. Akita, M. Yoshizawa, Chem. Sci., 6, 5059-5062 (2015).

譚ア莠ャ蟾・讌ュ螟ァ蟄ヲ